素晴らしい、Betty Buckley

 夜地元のIrving Arts CenterでBetty Buckleyのリサイタル。
 地元のプロダクションLyric Stageの15周年記念企画で、
 Fort Worth出身のBuckleyを迎えて3日連続公演の最終日。


 僕が初めて彼女を認識したのは1988年の5月にブロードウェイで
 1週間だけ公演されたミュージカル『Carrie』で。Carrieの
 母親役でした。狂気の母親役を鬼気迫る感じで。
 (この作品にはとんでもなく歌が上手いLinzi Hateleyっていう
 イギリスの当時まだ少女だった女優がCarrie役ででていて、
 彼女にはその後他の作品でバッタリであったりするんですが、
 それはまた別の話。)
 で、次はハリソン・フォードが主演した『Frantic』っていう映画で
 フォードの妻役で。
 その後は好きなガーシュインのCDの中で一曲歌っていたり。


 で、今晩の公演はピアニストと二人だけで、ブロードウェイのキャリアを
 振り返りながら自分が演じた役からの歌、その役がやりたくてオーディションを
 受けたのに落とされてステージでは歌えなかった歌等で綴る約2時間半の舞台。
 −Fort Worth出身のBuckleyは、Miss Fort Worthに選ばれるもMiss Texasでは
  Missに漏れ。でもパフォーマンスでやった歌が素晴らしかった為にMiss America
  本番のゲストパフォーマに選ばれて唄い、それがテレビ放映されてブロードウェイへの
  道が開けたと。
 −初めて受けたオーディションでその役のオーディション最終日の最後の演者で役を
  獲れたこと。
 −ある作品で作曲家からお前の為に書いたからオーディションを受けろと言われて
  受けたものの監督から気に入られず落ちたこと。その作品がリバイバルされた
  時にまたそう言われてオーディションを受けてまた落ちたこと。
  その時はPatti Luponeにその役を獲られたこと。でもその歌が好きで好きで自分の
  リサイタルで歌っていたらある日Luponeが怒って電話をかけてきて。
  「作曲家にお前の為に書いたといわれたのよ」と言うとLuponeも「私もそう言われた」と。
  で怒りが治まらず作曲家に電話するとその作曲家曰く「記憶にございません」と。
 −Lupone曰く「じゃあ、私が自分のリサイタルで"Memory"唄ったらあんたはどんな気分?」と。
 −『Cats』の中でその"Memory"を唄うGrizabellaのブロードウェイオリジナルキャストを
  獲り、監督から"You must stop the show"と言われるも、プレビュー公演では
  一向にshowをstopできなくて悩んだこと。ある日自分のアパートの前でべったり化粧を
  ぬった老女が優雅に歩くのに出会う。目が会うとあたかも「あなたにその気があるなら
  私の素晴らしい人生のことを教えてあげられるのに」と言うかのように誇りに満ちていたと。
  それがきっかけで、それまで老いさらばえた惨めな老猫として演じていたGrizabellaの
  演じ方が変わり、批評家向けプレビューの前夜に初めて満場の拍手でshowをstopできたこと。
  (結局、BuckleyはこれでTony獲得)


 で、アンコール前の最後の歌は"Memory"。涙・鼻水まじりのそれはそれは素晴らしい"Memory"
 でした。この地元劇場は300人もはいれば一杯の客席と舞台にほとんど距離がないしかけ、
 チケット売り切れで今日はステージ上の左右にもお客を入れて。僕の席は最前列の真ん中。
 衰えない声、お芝居混じりの沢山の歌、幸せでした。
 61歳のBuckleyは911後NYに住み続ける気がなくなり、地元に帰り、もともと夢だった牧場に
 住んで競走馬を育てるかたわら地元の大学や劇団で教えたり、時々Performanceしたりと。
 子供の頃、芸事に反対していた父親の陰で応援してくれた母親も観客の中に。


 ラッキー。